「KKマスカレイド for Summer」と「IRONY Tee」リリースの根底にあるもの

5月3日にオールシーズン用マスク〜KKマスカレイドをリリースしてから丸2ヶ月。新型コロナウイルスの感染が拡大し、季節が移り梅雨から初夏を迎えようとする中で僕たちは、続いてリリースする予定の夏用マスク〜KKマスカレイド for Summerの材料チョイスや縫製方法の改良などをひたすらやり続けていた。

マスク製作とその生産に没頭したのは、まずデザイナー業・縫製業・製造業の一員としての社会的責任を強く感じたからだ。世の中全体が不安な空気で覆われる中、マスクをつけること自体がポジティブでクールで且つ、自分を着飾ってくれて個性を主張するものであり、マスクがコロナで傷ついた僕たちの心を開放させてくれると同時にゆとりを与えてくれる。そんな信念のもと、ファッションと感染症対策との融合という壮大なテーマも相重なってKATSUYUKIKODAMAのマスク=KKマスカレイドは開発され誕生した。

夏用マスク〜KKマスカレイド for Summerは、外からの水を防ぐ「特殊コーティング樹脂」と、発汗の蒸気を速やかに放出する「特殊セラミック」の2つの機能を併せ持った透湿防水コーティング〜ISOFIX SUPERコーティングのポリエステルを採用。スポーツ仕様で機能性が高く心地よい着用感で、梅雨や暑くなるこれからの季節にも最適な素材だ。

しかし、この薄手のポリエステル素材の縫製は、これまで僕たちがやってきた皮革製品の縫製とは似て非なるもで全くの別分野。ナイロンやポリエステルといった化繊にしても綿などの布帛にしても、重いものを入れることの多いバッグの生地には強度が求められ、必ずウレタンやアクリルで裏面を加工する。裏加工を施すため風合いが一定程度失われた生地=硬い生地しかこれまで僕たちは扱ったことがなかった。

さらに夏用マスクは薄い生地が直接肌に当たるため皮革製品で頻繁に使用するボンドや糊、両面テープは使えない。「貼る」という作業ができないから生産は「縫い」だけで完成させなければならない。アパレルの縫製の世界では当たり前のことなんだけど、皮革製品の縫製が専門の僕たちにとって、裏加工が施されていない薄手の柔らかい生地を「貼る」作業をしないで「縫い」だけで製品を完成させていくのは全く経験したことのないこと。だからサンプルの製作段階から未知との遭遇続きだった。

しかし、これら問題はロックミシンとアイロン作業を見い出すことで即時に解決した。洋服は常に裏加工していない織物を使用するため生地の縁はロックミシンで縫ってほつれ止めをする。僕たちの工場は洋服の生産はしないからロックミシンはないんだけど、グループのレディース・アパレルチームが所有しているのを発見。ミシンの操作方法やトラブルシューティングを教えてもらいながら数日でマスターした。

マスクのプリーツをつけるのにはこれまで皮革製品で使用してきたボンドや糊ではなく、アイロンによるクセづけが効果的だった。ボンドや糊を使わなくても生地自体が柔らかいのでアイロンで簡単にクセがつく。クセがついたら一気に縫製してまとめていく。ロックミシンでのほつれ止めやアイロン作業という皮革製品の生産では存在しない初めてやるこの2つの作業が、僕たちの縫製技術のステージを数十段あげてくれた。

立ちはだかる壁をひとつひとつ乗り越えながら、同時にECで予約受注を取っていったKKマスカレイドシリーズは、リリースしてからわずか2ヶ月で生産数3,000枚を超えた。皮革製品が専門だった僕たちは布帛物のマスク生産をしたことで、縫製の守備範囲とデザインの攻撃範囲が同時に広がることになった。コロナが僕たちの生きる術を変え、これまでの概念=皮革製品のバッグや周辺グッズだけをデザインして作るという考えを易々と変えてしまった。

KKマスカレイド=マスクからスタートしたファッションとしての感染症対策アイテムは、マスクケース、ネックゲイター、Tシャツ、エコバッグ、ジョガーキャップ等々、一気にデザインが進んで商品化することになった。リモートワークやソーシャルディスタンスといった「新しい生活様式」において、必要だなとか欲しいなって思うアイテムは、今後臆することなくどんどんリリースしていくつもりだ。

その中にはもちろん大好きなバッグ=特にレザーのバッグや小物も同じく続々とクリエイションしていく予定で、それらは少し前からこのブログで書いてきたようにKK_EC SHOP内で新たに開設する「JOGGERS & WALKERS」というコンテンツ内で早速今週末よりリリースすることで作業が進んでいる。

その「JOGGERS & WALKERS」では今回、KATSUYUKIKODAMA PRARADIDDLEとして初となるTシャツがリリースになる。

KATSUYUKIKODAMAが国内展開がスタートして間もないころに一度だけTシャツやスウェット、パンツを製作しようとしてパターンを起すところまでいったことはあった。でも、その時はいまいちピンと来なくてサンプルを作ることなくパターン製作費だけを払って製作を途中でやめた。

ピンと来なかった理由は、例え美しいパターンを起こしたとしても、前身頃のどこかにブランドロゴをプリントしただけの何の変哲もないTシャツやスウェットを誰が買うんだ?って疑問に思ったから。当時PACK1を始めとしたバックパックが飛ぶ鳥を落とす勢いで世界中で売れていたので、それに乗じてノリで服を作ったとしても、いとも簡単に売れていくなんて、この世界そんなに甘いもんじゃない。それでその時はアパレル分野への進出を止めた。

しかし、コロナだ。

今春コロナの影響で、個別の展示会や合同展示会などの僕たちの「発表の場」が失われた。4月後半から5月にかけては政府による小売店休業要請のあおりを受け「販売の場」も一時的になくなった。国民の外出自粛期間、ファッションは不要不急とされ、バッグにいたっては今わざわざ新調しなくても生活に何ら影響はないアイテムになった。

新型コロナで僕たち自身のワークライフスタイルがこの先どうなるのかとか、ファッションブランド自体が、そしてファッション産業が今後どうなっていくんだろうといった不安な気持ちがずっと僕たちの心を支配し、ブランドの売上減によって今後収入そのものを確保する事が容易ではないという現実にも直面した。

新型コロナウイルスの感染拡大とワクチンや治療薬が出来るまでの生活の仕方は、現代に生きる誰もが経験したことのない未曾有で未知の事態であるのは十分承知している。だけどこの間の政府のコロナ対策のもたつき具合には、僕の心は常にモヤモヤしていた。

2月のダイヤモンドプリンセス号における後手後手の対応、突如表明された3月の小中学・高校の一斉休校、エープリルプールに世帯向けの布マスク配布が発表されたアベノマスク、特定世帯へ30万円から全国民1人あたり10万円に予算案が組み替え変更された現金給付の紆余曲折、ワッと湧き出てシュンと尻つぼみになった9月入学など、挙げたらキリがない現政権のシドロモドロの立ち振る舞いに、僕は毎日ズッコケ続けた。

さらに東京高検検事長だった黒川氏の定年延長の閣議決定に端を発し、一般人から著名人に広がった「#検察庁法改正案に抗議します」でのツイッターデモや、その後の黒川氏の賭け麻雀によるあっけない辞任、公職選挙法違反(買収)容疑で現職国会議員である河井克行前法務大臣・案里夫妻の同時逮捕という憲政史上初の醜態が、コロナ禍においてもなお噴出しつづける現政権は誰が見たってもはや末期状態。

集団的自衛権の容認問題や、森友学園・加計学園問題、「桜を見る会」の前夜祭問題、官僚たちの忖度による公文書改竄問題など、タケノコのごとく続々と出てくる疑惑では身近な事とは感じなかった国民が、先述の新型コロナウイルス感染対策の数々の失敗と、露わになった持続化給付事業の中抜きの構図が決定打となって、政府の優劣は自分たちの生活に直結することだということに遂に気づいた。このままではいけない。コロナを機に時代を変えなければいけない。僕たちは僕たちの未来を託す政治家選びを真剣に考えなきゃいけない時がきた。

僕は選挙権を得た20歳から現在に至るまで選挙には必ず行き清き一票を投じてきた。小学生のころから政治に興味があったから、時の政権を是々非々でずっと監視してきたし、これからもそうするつもりだ。でも同時に若い世代をはじめ僕たちの世代も含めて政治に興味がない人が多すぎるんじゃないかなって常に感じていた。選挙にはいくけれど政治に対して無関心と言う人が多すぎるんじゃないかって。

かつての消費税導入・リクルート疑惑時のマドンナ旋風や、郵政民営化の是非を問い与党内の反対議員に刺客を送り込んだ小泉劇場、記憶に新しい前回の都知事選の(小池)百合子グリーンなど、大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢、いわゆるポピュリズムに煽られた時には少しだけ政治を見ることはあっても、選挙が終わったたら政治には一切興味はなし。これまでそんな人だらけだった。

それが今、ついに変化の時を迎えようとしている。そこで僕はこのコロナ禍で起こっている数々の出来事の風刺を、IRONY(アイロニー:反語・皮肉・風刺)としてアパレル・アイテムで表現してみようと考えた。様々な事が起き続けている今が絶好の機会だ。それによって時事に対して多くの人の興味を駆り立て、自分たちの志によって未来を創っていく。それが今を生きる僕たちの責務だと確信し、IRONYアイテムを創造していくことを決意した。

音楽や映画やファッションは、IRONYを表現するにはもっとも適しているし、時代そのものを記録として残す媒体としてファッションを活用するのはデザイナーのクリエイションともジャストフィットだ。IRONYとして物事を表現したグラフィックやメッセージをTシャツやそのほか僕たちがこれまで扱って来なかったアイテムに落とし込んで発表していく。その第一弾が今週リリース予定の「IRONY Tee」なのだ。

コロナによって変貌していく僕たちの生きていく術は、マスク作りから始まってアパレル分野への正式参入という、僕たち自身が想像もしなかった方向へと今まさに舵が切られた。

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