Hey, Mr.Genius!
政府の新型コロナウイルスに関する専門家会議に代わる新たな有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の初会合が先日、東京都内で開かれた。その中で、イベントの開催制限については、10日から参加人数の上限を5000人に緩和する政府案が了承された。
イベントは現在、屋内では収容人員の50%以内、屋外では十分な間隔を取れば、1000人を上限に開催できることになっているんだけど、10日以降は収容を5000人までに広げるという内容。僕たちの生活する東京では感染が再拡大していると思われる中でも、コロナと共存しながら経済活動は止めないという指針が改めて示された。
プロスポーツや展示会、コンサート等は開催制限が段階的に緩和されることになり、全く機能しなかった4月や5月に比べて少しずつだけど前進しはじめた。そのことに関して「やっと!」と思うか「もう?」と思うかはかなか微妙だけど、暗中模索でも十分な感染予防を行ない注意深く用心を重ねながら個々が行動をするしか、今は策が見当たらないのも事実。僕個人としては、イベント・エンタメ業界を応援する意味でも、イベントの開催制限の段階的緩和は大いに歓迎したい。
僕が参加する予定で、コロナによって延期や中止になったイベント・エンタメはたくさんある。ビジネスにおいては、3月に渋谷で開催予定だったアメリカ系合同展示会のPROJECT TOKYO、4月に青山でのDIET BUTCHER SLIM SKINとのカップリング展示会、プライベートでは4月の埼玉県加須市でのボルダリング・リードジャパンカップ、5月に表参道でのANTHEM 35thアニヴァーサリーツアー・プロローグ2公演等々だ。これらの中には秋に向けて復活するイベントもあるけれど、中止のまま立ち消えてしまうものもあって、本当に残念でもありその損失を考えると非常に心配でもある。
コロナ前のように多くの人が集うイベントがいつ再開されるのか?来年には大丈夫だろう。いや、この数年は無理かもしれない。もう未来永遠、昔のようには開催できないのかも等の憶測が飛び交う中、様々な感染予防対策を行なって今後少しづつ開催されるようになるイベントやエンタメには積極的に足を運びたいと思う。
イベント・エンタメ業界同様、最近僕たちの活動の場のファッション業界でも、コロナが原因で一部仕事が減ったり失ったりすることが珍しくなくなってきた。これまで2000年代前半のITバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災などでも一瞬雲行きが怪しくなったこともあったけど、自分たちの仕事にはそこまで影響することはなかった。でも今回はこれまでとは様子が劇的に違う。本当に仕事が減り無くなっているのだ。
住宅ローンや教育ローンなどを抱える働き盛りの僕たちの世代は、収入の減少や最悪の場合失業という事態に至った場合を予測して、リスクヘッジを常に考えておかないといけなかったんだけど、90年代初頭のバブル崩壊以降、30年間にも及ぶ経済の停滞が、僕たちの警戒感をマヒさせ不景気を慣れっこにしてしまった。景気が上昇しなくても一定の仕事はあって収入は高止まりして安定しているというぬるま湯が、僕たちを茹でダコ無能状態にし油断させたのだ。ところがコロナで瞬く間に危機が訪れた。
全世界で同時に起きているコロナ・ショックは、グローバリズムの恩恵を受けながら生存してきた僕たちのファッション・ビジネスの「幹」を、根こそぎ抜き取り、いとも簡単に捨て去ってしまった。欧米ではコロナによるロックダウンで売上が激減した老舗百貨店やセレクトショップ、アパレルメーカーの倒産ドミノが起きていて、日本国内でも老舗大手アパレルが早々と倒産した。
コロナ禍では政府や自治体による外出自粛要請や休業要請によってサプライチェーンの川上(供給側)よりもまず、小売店などの川下側に影響が出る。店を開いても外出自粛で客がこないか、客は来るのに休業要請で店を開けないか。小売店の動きが止まれば、そこを相手にするブランド(メーカー)の仕事がなくなり、ブランド(メーカー)からの発注が止まった材料サプライヤーは操業停止を余儀なくされる。サプライチェーンという大きな川の逆流だ。僕たちは、これまでに起こった多くの経済ショックでも決して経験することのなかった「仕事をしたくても仕事がない」という過酷な状況下に、あっという間に身を置くことになったのだ。
僕の周りにはファッションブランドの経営者や、フリーランスのデザイナーが多い。最近になってようやくその仲間たちとの夜の会食が復活しつつあるんだけど、現在の状況は三者三様、僕を含めみんなコロナの影響を大いに受けながら活動中だ。
コロナ禍だろうがなんだろうがカスタマーに共感してもらえる新たなクリエイションを次々と打ち出していている人とは、一緒に話をしててもその活力が共有ができて痛快で楽しい。しかし、過去にしがみついてなかなか未来が描けず、仕事も減りヤサグレになっちゃて腐りかけている人もいて、そんな人と食事していると、負の渦に吸い込まれそうになって酒がちっとも旨くない。
みんなそれぞれの分野で一時代を築いた人ばかりなんだけど、それはコロナ以前のぬるま湯=平時でのこと。ちょっと人と違うことができれば誰でもある程度の実績は残せたし、たまたま出たヒット作が「まぐれ」であることに気づかず、一端のデザイナー気取りでいることができた。でも今のように一瞬で時代が変わりファッションよりもそれ以外の事の方が優先される環境の中では、大胆な発想の転換やその人の持つクリエイションの奥行きで勝負していかなければならず、デザイナーそのものの実力が一斉に試される。今はまさに「戦国の世の時の如し」なのだ。
コロナは誰を贔屓することもなく、平等に僕たちに降り注いで来る未知の敵だ。その敵と闘うのに気取っている場合じゃないし、過去の実績に溺れている場合でもない。デザイナーのプライドなんかコロナにしてみれば虫けら以下で、なにもかも一瞬に消し去る恐ろしい力を持つのが今まさに僕たちが対峙しているコロナなのだ。過去はさっさと捨て、新たな発想を持って果敢に未来へ挑め!コロナ禍とコロナ後に必ず浮上するために、自戒の念を込めて今ここに書き記しておく。
2020年は決して忘れることのない戦国の世が始まった年としてとして僕たちの心に深く刻み込まれるだろう。
Hey, Mr.Genius! 自分を変えられるかい?