「LIVE and SURVIVE(ライヴ & サヴァイヴ)」プロジェクト 〜 続報①
僕は先々週来、「LIVE and SURVIVE(ライヴ & サヴァイヴ)」プロジェクトのアイテムを進めるにあたり、雨や水を浸透させないバッグの形成方法をリサーチしていた。「生きる、そして生き残る」ことをコンセプトにしたこの企画群のクリエイションやプロダクションは、これまでとは真逆の発想を要し、手がかりのないままあれやこれやと検索しまくりのスタートだ。
調べていくうちに雨や水を浸透させない形成方法は、糸と針を使った縫製ではなく、高周波ウェルダーによる溶接=溶着で形成することがわかった。アパレルではレインコート、シューズではレインシューズで多用され、身近なものだとテントや浮き輪、家庭用ビニールプールなどもこの方法で成形されている。
ウェルダー加工のできる会社は何社もあって、九州や、関東北部、中部地方、東京などの会社が僕のリサーチ・エンジンに引っかかり連絡を取ったみたもののなかなかアポイントが取れるまでには至らず。 迫り来る自然災害に対し商品化計画は待ったなしの状態だから「LIVE and SURVIVE(ライヴ & サヴァイヴ)」のコンセプトを電話にて最初から丁寧に説明するんだけど、僕の想いは簡単には伝わらなくて温度差を感じることばかりだった。
そりゃそうだ。先方からしてみたら、突然電話が鳴って出てみると、「生きる、そして生き残る」ことをコンセプトにしたアイテムを作っていて、それが早急に必要で、御社の技術と接点を持ちたいってことを延々と熱弁される。忙しい営業中に迷惑極まりないと感じた会社もあったかもしれない。メールアドレスを聞いて電話の内容のリマインドメールを送っても、返信が一切ない会社も複数あった。
そんな折、ついに大阪の会社とアポイントが取れた。その会社の電話に出た営業の方は、僕の話を一通り聞いたあと「1ヶ月に1度ほど東京に出張する機会があるので、その時にそちらのオフィスに伺いますよ」と言って電話を切った。僕は「LIVE and SURVIVE(ライヴ & サヴァイヴ)」プロジェクトにまずは風穴が開いたことに胸を撫でおろしたけれど、その営業の方の1ヶ月に1度の東京出張が、次はいつになるのかが分からないので、スカッとした爽快感とまではいってなかった。
思い立ったらいてもたってもいられないタチの僕は、取って返して再度その会社へ連絡をして無理くりアポイントを取り、3日後には大阪へ向かう飛行機に乗っていた。大阪伊丹空港からリムジンバスで梅田に行き、一旦阪急メンズ大阪へ立ち寄って僕たちのセールスのスタッフと打ち合わせしたあと、環状線の大正駅についたのはお昼すぎだった。僕は大阪へは25年以上仕事で大阪で来ているけれども、この大正駅って駅で降りるのは今回が初めてだ。
初めて降りた大正駅の周辺には小さな居酒屋がたくさんあってなかなか興味をそそられる街並みだ。その中でも沖縄料理店がたくさんあって、なんだか東京の沖縄タウンの代田橋を思わせる雰囲気だ。
木津川と道頓堀川が合流し尻無川と木津川に分岐するという運河がクロスするこのエリアは、コンビニやスーパーなどがあまりない代わりに鉄工所のような小さな工場がたくさんある。運河があって港(大阪南港)も近くて鉄工所も多いといえば、東京でいうと大田区みたいなところなんだろう。梅雨がやっとあけてついにやってきた酷暑の刺さるような陽を浴びながら、アポイントの取れた会社へ早歩きで向かっていると汗が止まることなく噴き出して来た。
その会社へ向かう途中でも、僕はまだ高周波ウェルダーによる溶接=溶着のできる会社を探して電話をしていた。大阪・大正の会社にはアポイントは取れているものの、もしかしたら「LIVE and SURVIVE(ライヴ & サヴァイヴ)」プロジェクトとはソリが合わず門前払いをされるかもしれない。そこまでではなくてもギリギリのところで企画が頓挫する恐れもある。だから僕はウェルダー加工のできる会社や工場に片っ端から電話して翌週も翌々週もアポイントが入れられるように予定を開けていた。
とにかく早くコンビを組める会社と出会わないと、この「LIVE and SURVIVE(ライヴ & サヴァイヴ)」プロジェクトは具現化できないので、たくさんの会社を訪問してその中からジャストフィットな会社を見出すか、それとも最初に訪問する大阪・大正の会社が運良くぴったりな会社なのかは、神のみぞ知るところだ。
大正駅からアポイントの取れた会社までは結構な距離があって、早歩きで向かうにも時間はそこそこかかるので、リサーチの電話を数件入れながら歩くにはちょうどよかった。関東北部の会社とは長く話をすることができた。担当者も若そうだし、話の内容も理解してくれたんだけど、さてアポイントを取ろうとすると「ファッション分野はあまりやったことがないから、会うまでもないと思う」ような回答で、やんわりと断られた。
ウェルダー加工の商品をまとめるにあたり、製品を完成させるまでのさまざまな工程や最終処理の仕方、つまり「しまつ」の仕方は、そう簡単にはコンプリートできないし、市場に出回るウェルダー加工の施された製品は大量生産もので価格も安い。さらにすでに市場形成されているレインコートやレインシューズ、テントや浮き輪、家庭用ビニールプールなどの規模感とくらべ、「LIVE and SURVIVE(ライヴ & サヴァイヴ)」プロジェクトは当然ながら先は不透明。
そんなプロジェクトをこのコロナ禍で開発していくのは、なかなか重い腰が上がらない。やんわり断られたのはそんな理由だろう。「くーーーぅ、また断られた」。電話を切ったあと思わずため息をついてしまった頃、ようやくアポイントの取れた会社のエントランスに到着した。その会社の建物全体を見渡すと2階建ての小さめの体育館のような作りで、建物のわりにエントランスが小さい。しかもドアはガラスドアの観音開きではなく、中の見えないアルミ製の引き戸のサッシだ。
なんとも言えないそのバランスに、僕は少しだけ戸惑いながら緊張した面持ちでアルミ製の引き戸を左に引いた。
〜②へつづく