原点への導き

先週と今週、東京と大阪で展示会を行なった。コロナの影響で実に1年ぶりの展示会だ。コロナの第三波で感染者が急増する中でもお越しいただいたみなさま、本当にありがとうございました。

Summer_2021は「Create a new normal」がテーマで、ウエアラブルを前面に打ち出したリストポーチやアームケース、"Joggers and Walkers"のカテゴリーからパッカリング・ウインドブレーカーやキャップ、"Stay home"に対応したエプロンやイージートート、コロナ禍での"Stay positive"を主張したカメラバッグなど、会場内は新たな様式を創出するアイテムの数々で埋め尽くされた。

これらの新しいアイテムの中ではバッグの比率が極端に減り、その代わりにIrony Teeやウインドブレーカー、エプロンなどのアパレルアイテムが登場することになるなんて、1年前には考えもしなかったことだ。今後もその方面へは積極的に進出していくつもりだし、またアパレルのデザイナー仲間と新しい企画も進行中なので期待していただきたい。

そんな中、僕の中ではずっと心のどこかに"得体の知れない引っ掛かり"も感じていた。

もちろんテーマを「Create a new normal」したのだから、新作が新たな領域のアイテムで構成されるのは当然の事だ。それらはこれまで通り僕の強い意志を確実に反映してるし、新作各々のクオリティにも満足している。新作の制作にかけた時間も一切手を抜く事なく突き進んだし、新作をリリースするまでのワクワク感もたまらなく楽しい。

しかし、それでも僕はずっと"得体の知れない引っ掛かり"を感じていた。でも"得体の知れない引っ掛かり"の正体が解るまでにそんなに時間はかからなかった。

新作のサンプル制作がほぼ終了するころ、新宿の老舗セレクトショップのKAWANOさんの70周年記念モデルの制作のオファーがきた。KAWANOさんのバイヤーの宇野さんから「70周年記念モデルは是非バックパックで制作して欲しい」と要請された。そこで僕はその70周年記念モデルにPACK1の3Dモデルを復刻させることにした。

PACK1の3DモデルがリリースされたのはAW2015-16シーズンで、今から5年前。PACK1の繭の部分を漉きと縫製とを繰り返して3Dにしていくというクラフトとモードを融合させたモデルだ。僕はKATSUYUKIKODAMAのアイコン中のアイコンであるPACK1を久々に作りたかったし、その3Dモデルを2020年らしくモディファイすることはかなりエキサイティングだと感じて、どう料理するかをいろいろと考えていた。

モディファイの内容が決まってから3Dモデルの縫製に入ろうとするころ、Summer_2021の「Create a new normal」の展示会が始まった。KAWANOさんの宇野バイヤーは展示会の初日に来ていただいたんだけど、今はどこも展開しておらず在庫もないDENSITY MANIAシリーズの第一世代のPACK2やPACK4のサンプルを見せると速攻注文してくれて、突然ながらKAWANOさんで眠っていた名モデルが復活することになった。

そういえば新宿のKAWANOさんでKATSUYUKIKODAMAの展開がスタートした2018年春は、DENSITY MANIAシリーズの第二世代のPACK1_MやPACK5、PACK6が大旋風を巻き起こしていて、前世代のPACK2、PACK4まで生産が回らずその2モデルはそのままフェイドアウトになって現在に至っていた。第一世代を見たこともセールスしたこともない宇野バイヤーの眼には、それらは物凄い新鮮に写ったのだろう。

旧モデルを速攻オーダーしていくその姿をみたとき、僕の前に立ちはだかっていた高くて分厚い壁にひとつだけ風穴が開いた気がした。

そして、東京展示会が終わる頃にPACK1_3Dモデル復刻版の縫製が佳境を迎えようとしていた。復刻にあたり、パターンや使用する革・パーツは当時のものとほぼ変えずオリジナルを忠実に再現していったんだけど、最終仕上げの段階で3Dの要所要所の窪みにイタリアのランポーニスタッズのピラミッド・トロンカを複数打ち込み、最後のジッパープラーの先端にもそのスタッズを打ち込んだ。それらが3Dモデルの存在感と上質感をより一層高めたと同時に、70周年記念モデルの特別感が煌々と光を放ち「佇まい」の逸品が完成した。

完成したPACK1_3Dモデル復刻版を見た瞬間、高くて分厚い壁の風穴が決壊してこのところ僕の心を覆っていた"得体の知れない引っ掛かり"の正体がはっきりと見えた。

その正体とは、コロナによって変わった様々な環境に惑わされ、新しい様式を創ろうとする場に及んでも、本当に大切なものの存在を忘れかけている自分への忠告だったのだ。KATSUYUKIKODAMAが現在に至るまでの原動力は間違いなくDENSITY MANIAシリーズで、原点に立ち戻って時代に沿ったさらに新しいDENSITY MANIAの創出こそが今僕がやらなければならないこと=僕に科された使命だ。そしてそれこそがまさに「Create a new normal〜新たな様式を創る」ことなのだ。

KAWANOさんの70周年記念モデルのPACK1_3Dモデル復刻版の制作が僕を原点に導いてくれた。心がスカっと晴れ渡った気分だ。早速「DENSITY MANIA for new normal」の制作を始めることにしよう。

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