パラダイムシフトへの対応〜第2回
さて前回から数回に渡って、AW2019の新作をデザイナー自ら解説しています。
新作は、前回より解説しているユニバーサル・デザインでポストミシン仕立ての「DENSITY MANIA #AIR」、バッグトレンドのパラダイムシフトへ対応した「CREATION JOURNEY」、KATSUYUKIKODAMAのクリエイションで使用された素材をリユースした「DESTINATION」などで構成されている。
まずはAW2019シーズンの代表作「DENSITY MANIA #AIR」。ポストミシンによる仕立てのプロトタイプ製作で試行錯誤している去年の12月、工場仲間の社長に紹介してもらった荒川区の木型屋さんへ佐古と僕は向かった。
荒川区のとある街道沿いにその木型屋さんはあった。でも僕たちはGoogle Mapsが指し示すその場所に最初は気づかず車で通過しちゃった。一軒家のその木型屋さんはかなり古い建物で、そこでポストミシン仕立て用の木型が作られているなんて想像も出来ない雰囲気。しかも外には看板もなく初めて来た僕たちが通りすぎるのは無理もない。通り過ぎた先から電話を入れたらどうやらその古い建物が木型屋さんとのこと。おいおい、なんだか妙な緊張モードになってきたぞ・・・。
僕たちはその古い建物に戻り、古い木枠のガラスの引き戸を開けた。中に入るとほとんどが土間で、奥に小さな作業場があった。土間の部分には餅つき用の臼や杵、木槌、太鼓のバチ、火の用心に使う拍子木などが所狭しと天井から吊るされたり地面に直置きされていた。奥の作業場からかなり年配で見るからに熟練職人の横溝さんがやって来た。臼や杵、木槌などが並んでいたから、それらとトレンドのバッグを仕立てるための木型をつくるノウハウとが、どう考えても結びつかなかった。
佐古はまずはこれまでのポストミシン仕立ての試行錯誤と苦労話を熟練の横溝さんに話をしてその対処法を相談した。すると熟練の横溝さんはポストミシン仕立てのための木型の木の種類や厚み、バッグの仕立て方法や型紙の作り方など、次々と話をしてくれて、これまでの経験値から貼り込みやつりこみ、縫い方をひとつひとつ丁寧に教えてくれた。横溝さんの話を聞いてみると東京におけるポストミシン仕立ての歴史は僕たちが想像していたより随分長く、ハンドバッグ製造の黎明期から多くのバッグ職人がポストミシンを使ってバッグを縫製していたらしい。おそらく大量生産・大量消費の時代を迎え生産効率が重視されるようになったバブル期やファストが台頭した2000年代以降、急激にポストミシンを使って仕立てるバッグと職人は姿を消したのではないかと僕たちは推測した。
さらにハンドバッグ製造の黎明期にバッグの職人がイタリア製のハンドバッグを見てその製造方法を研究するにあたって試行錯誤の結果、木型が必要だってことにたどり着き、臼や杵、木槌、太鼓のバチ、火の用心に使う拍子木などを製造する横溝さんに木型を依頼したんだろう。横溝さんは全くの畑違いなのに依頼された木型を製作しながら一緒になってハンドバッグのポストミシン仕立ての方法を考えていっんじゃないかな?ってことは僕たちは勝手に横溝さんのことを木型屋さんと思っていたけど、正確には木工製品屋さんだったんだ!
僕は横溝さんと佐古が話しをしているのを横で聞きながら、ふと天井から吊るされたり地面に直置きされている木工製品を見てみた。どれも手作りの木工製品は、角や面が取られ、丸く削って磨かれ、どれもこれも見事なまでに美しく加工されていて、まさに職人技の逸品に仕上がっている。しかもどの製品も削りたて磨きたてで、日焼けしていないので、在庫でずっと眠っているのではなく、商品の回転の良いことがひと目でわかった。伝統工芸の技術と巧みという河の水は、今でも脈々と流れ続けていることを感じさせられた瞬間だった。
横溝さんから木型が出来上がったのはそれから1週後。横溝さんのアドバイスもあったおかげでそれからは急ピッチとはいかないまでも、僕たちのポストミシン仕立ての作業はかなりスピードが上がってサンプルは完成した。最終形が出来上がったとき、佐古と僕は「DENSITY MANIA #AIR」の美しさとその佇まいに圧倒されて声も出なかった。
ハンドバッグ製造の黎明期からあった木工製品技術との融合の未来形がKATSUYUKIKODAMAの次シーズンの主役となる「DENSITY MANIA #AIR」。このユニバーサル・デザインをぜひ身につけてください。
〜第3回につづく